ランチェスターの法則とは、第1次世界大戦時にイギリスのエンジニアであるフレデリック・ランチェスターが、武器の性能が戦闘力を決定づけるとした法則を指します。このランチェスターの軍事戦略をマーケティングに当てはめたものが、現在、マーケティングの世界で使われているランチェスターの法則です。
ランチェスター戦略とは
ランチェスター戦略とは、販売競争に勝つための理論と実務の体系で、ランチェスターの法則に基づく、世界で最も広く利用されている戦略の1つといわれています。弱者が強者に勝つための戦略方法で、中小企業が大企業に勝ち抜くために役立つ戦略です。
軍事戦略としてのランチェスターの法則
軍事戦略におけるランチェスターの法則には、2つの重要な法則があります。
まず、第1法則です。
- 攻撃力=武器の性能(質)×兵士の数(量)
第1法則は、大昔の戦に当てはまる法則です。大昔の戦では、刀剣などの比較的シンプルな武器が主体でした。このような戦では、兵士の数が多いほど攻撃力が強くなります。
これを「弱者の戦略」と呼びます。
次に第2法則です。
攻撃力=武器の性能(質)×兵士の数(量)×兵士の数(量)
第2法則では、近代戦のような銃などの飛び道具が武器として想定されています。このような戦では、武器の性能×兵士数の2乗が攻撃力になります。
これを「強者の戦略」と呼びます。
では、なぜ第2法則では兵士の数に二乗がかかるのでしょうか?
第1法則の解説
第1法則では刀剣を使って戦うため、必然的に接近戦になります。
例えば「A軍40人対B軍20人」としましょう。兵士の能力が一律の条件で、全く同じ性能の武器を使う場合、勝率は5割です。したがって、40対20→20対10→10対5→…とA軍が優勢な状態が続きます。
第2法則の解説
次に、第2法則の長距離戦の場合を考えてみましょう。
双方の兵士の数は、先ほどと同様の40対20です。双方とも銃を持った兵士が等間隔で並びます。全員が同時に戦うという点が、接近戦とは明らかに異なります。
A軍は2人でB軍1人と対決すれば大丈夫ですね?一方、B軍は1人でA軍2人と対決する必要があります。つまりA軍1人を倒すためにB軍0.5人が必要です。
兵士の数は2倍の差ですが、相手の兵士1人を倒すのにかかる兵士の数は2÷0.5=4倍違います。
したがって、第2法則では兵士の数に二乗がかかります。
以上から、第2法則では強者たるA軍が有利、第1法則では弱者たるB軍が(比較的)有利といえます。
マーケティングへの応用
マーケティングにおけるランチェスター戦略でのポイントは「強者」「弱者」という点です。マーケティングにおいては、大手企業を強者、中小企業などを弱者と考えます。そして、大手企業は強者ならではの戦略を、中小企業などは弱者ならではの戦略を用いれば、良い戦いができるとしています。
弱者は第1法則で戦う
ランチェスター戦略の第1法則を応用することで、中小企業も個人事業主も、競争の激しいマーケットで強者と対等に戦うことができます。
第1法則は接近戦でした。弱者である中小企業や個人事業主の兵士(社員)の数は、大企業の兵士の数にはまったく及びません。そのまま戦っても負けることは目に見えていますし、現に負けるだろうと目測を立てている人も多いでしょう。
そこで考えるべきがニッチです。強者が苦手とするニッチなところを攻めるのです。ニッチなマーケットであれば、商品やサービスのクオリティを高めることで、弱者でも十分に勝負になります。ニッチなマーケットで上位に立てば、あなたのところにしかお客さんが来なくなる仕組みが作れるため勝機があるということです。
この戦い方なら、ひとつのマーケットに兵士を集中させることにより、強者を圧倒することすら可能です。
強者は第2法則で戦う
弱者である中小企業や個人事業主は、第1法則の戦い方に持ち込むことで強者である大企業と対等に戦える可能性がありますが、それでは大企業はどうやって戦えばいいのでしょうか?
その答えは第2法則にあります。”兵士”の数や資金力、ブランド力があるポジションにある場合は、接近戦ではなく、距離をとった戦い方が基本になるでしょう。
SNSなどを通じた副業では、この視点が弱くポジションを取られている事例が多発しているように見受けられます。まずは弱者の戦略が大切ですが、ある程度ポジションをとれたら思い出していただきたい点です。
個人ビジネスへの活かし方
実際にどんな企業がランチェスター戦略で勝ち上がってきたのか、実例をみてみましょう。
例1: 静岡のハンバーグ屋さん『さわやか』
さわやかは、静岡県に展開するハンバーグチェーン店です。
現在では全国にその知名度を誇り、静岡に行ったら「さわやか」のハンバーグを食べるという方もいるのではないでしょうか。
この『さわやか』が行なったランチェスター戦略が接近戦という形でニッチを狙いました。
メニューを絞り、ハンバーグのみに注力することで「ハンバーグが美味しい店」というブランディングに成功したのです。
さらには、静岡県に限定してその勢力を展開することで、地域が限定された特別感も演出。
2022年4月現在、『さわやか』は静岡県内のみに34店舗展開するにとどまっています。
例2: コンビニ大手『セブンイレブン』
セブンイレブンは言わずと知れたコンビニ大手です。
現在は全国21,000店舗以上ある巨大サービスとなりましたが、最初はセブンイレブンも”弱者”でした。
この『セブンイレブン』が特に行なったランチェスター戦略が局地戦という形でした。
販売地域を細分化し、大阪という限定された地域に資本を集中させ、驚異的なスピードで新規店舗を出店し続けたのです。
街中に急速に増えていく新しいコンビニチェーンに、周辺住民の興味関心が集中。
大阪への出店数が300店舗を超えたころから、集客力が右肩上がりに増えたと言います。
結果として、関心の高まりから宣伝効果があがり、関西圏でもマーケットシェア率トップの座を奪うことに成功したのです。
例3:風邪薬の強者『第一三共』
第一三共は、風邪薬市場シェア率2位を誇る薬メーカーです。真の強者というには足りませんが、市場を制圧する力が強いという点で、事実上の強者といえるでしょう。
まず動いたのは、シェア率3位の武田薬品でした。
ベンザブロックに「あなたの風邪に狙いを決めて」のキャッチコピーをつけ、熱・のど・鼻の症状別に分けた3種類の風邪薬を市場に投入したのです。
風邪薬はすべての症状への対処を網羅したものがほとんどだったため、圧倒的な差別化を果たしました。
これに対し、シェア率2位の第一三共は、自社で長年使い続けてきた風邪薬のキャッチコピーを「熱・のど・鼻にルルが効く」に変更。
「症状別に特化した風邪薬」という武田薬品の差別化を打ち消した見事なミートでした。
結果、翌年のシェア率は第一三共が14.4%(前年比108%)に上昇したのに対し、武田薬品は9.5%(前年比102%)の微増に留まることに。
まったく動かなかったシェア率トップの大正製薬は、33.0%から29.5%(前年比89%)と大幅ダウンすることとなりました。
最後に
今回はランチェスター戦略の概観についてご紹介しました。ビジネスの世界では、弱者でもうまく立ち回ることで強者に対抗することが可能です。あなたのビジネスは、弱者なりの戦略、強者なりの戦略がとれているでしょうか?この機にチェックしてみてください。